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倶楽部貴船

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お菊人形 -6-



お菊は、『学校』と聞いただけで、お腹のあたりがぎゅっと小さく
つねられるような気がした。
このごろ学校でいじめっ子達が、
「山本のしゅうは、あっちへ行け、来るな。
川東の学校は、川東のしゅうの物だぞ」
「きたない」
「くさい」
「病気がうつる!」
お菊の顔を見れば、こそこそ逃げ出す子もいて、お菊は一人ぼっちだった。
それは、なんでも話す妙ちゃにも言えないし
山の仕事で忙しいおとうちゃんにも
お菊の大好きな、おかあちゃんにも言えなかった。

山本から一人だけの一年生。
何を言われても、泣くもんか。
絶対、泣かないぞ!と歯をくいしばる毎日が続いていた。
おかあちゃんが作ってくれた、赤い新しい着物も、いじめっ子達に、
「赤いべべ着て学校へ来るな!」
 赤は、火の色、
 あっちの山へとんで行け!」
とはやし立てられ、とうとうお菊は、
「おかあちゃ、赤い着物は大事にとっておくで
前の着物を出してくれんかなあ」
と頼んで、うす茶色のめだたん着物を着て行くようにした。
若い男の先生は、お菊にも、いじめっ子達にもやさしいけれど
お菊が毎日、どんなに悲しい気持ちで学校に来ているのか
少しも気づいてくれなかった。

「お菊、学校はどうだ?」
めずらしく早く仕事を終えて帰ってきたおとうちゃんは
太郎をひざに入れて座るとお菊に声をかけた。
「うん、まあ、まあ」
お菊が答えると、おとうちゃんは目を細めて、
「そうか、そうか。まあ、まあが一番いいぞ」
お菊は、こくんとうなずくと泣きそうになるのを、ぐっとがまんした。
人形を見上げると、“さあ、がんばるんだよ”というように
黒い目でお菊をじっと見つめてくれていた。


─6─


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